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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(行ツ)139号 判決

上告人

藤井護

右訴訟代理人

那須弘平

被上告人

藤沢税務署長

伊東稔博

右指定代理人

古川悌二

被上告人

国税不服審判所長

林信一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人那須弘平の上告理由第一点ないし第三点について

本件株式の譲渡による所得を雑所得として課税した本件更正処分に違法はないとの原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決の法令解釈の誤りをいうか、又は原審において主張しない事由に基づいて原判決の不当をいうものであつて、いずれも採用することができない。

同第四点について

国税通則法(以下「法」という。)六五条の規定による過少申告加算税と法六八条一項の規定による重加算税とは、ともに申告納税方式による国税について過少な申告を行つた納税者に対する行政上の制裁として賦課されるものであつて、同一の修正申告又は更正に係るものである限り、その賦課及び税額計算の基礎を同じくし、ただ、後者の重加算税は、前者の過少申告加算税の賦課要件に該当することに加えて、当該納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出するという不正手段を用いたとの特別の事由が存する場合に、当該基礎となる税額に対し、過少申告加算税におけるよりも重い一定比率を乗じて得られる金額の制裁を課することとしたものと考えられるから、両者は相互に無関係な別個独立の処分ではなく、重加算税の賦課は、過少申告加算税として賦課されるべき一定の税額に前記加重額に当たる一定の金額を加えた額の税を賦課する処分として、右過少申告加算税の賦課に相当する部分をその中に含んでいるものと解するのが相当である。

したがつて、重加算税の賦課決定に対する審査請求においては、右の加重事由の存否のみならず、過少申告加算税の賦課要件の存否も当然に審判の対象となり、審査の結果、後者の要件の全部又は一部が否定された場合には、加重事由の存否を問うまでもなく当然にその限度で重加算税の全部又は一部が取消しを免れないこととなるとともに、右後者の要件の存否が認められ、加重事由の存否の点についてのみ原処分庁の認定判断に誤りがある場合には、加算税額中これに応じて減額されるべき部分についてのみ原処分を取り消し、その余については審査請求を棄却すべきものであつて、このように解しても、もとより審査庁である国税不服審判所長がその権限に属さない税の賦課決定権を行使したことになるものではない。

そして、重加算税の賦課決定に対する審査請求における審判の対象及び内容が前記のとおりである以上、審査請求人において過少申告加算税の賦課要件の存否についての原処分庁の判断にも不服があるときは、右審査請求手続において法六五条二項に規定する「正当な理由」の有無の点を主張することができ、また、そうすべきものであつて、その主張がされていないために審査庁が審査裁決の中で特に右の点に関する判断を示さなかつたとしても、そのために右裁決に所論の違法があるということはできない。

以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(和田誠一 団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 谷口正孝)

上告代理人那須弘平の上告理由

第一点〜第三点〈省略〉

第四点 原判決は、重加算税の賦課決定につき審査請求を受けた場合に、過少申告加算税をも審理の対象とすべきかどうか、及びその場合に同税が非課税となる「正当理由」の主張責任について、国税通則法六十五条及び行政不服審査法の解釈を誤り、かつこの点に関し、審理不尽の違法があつた。即ち、

一、(一) 第一審判決は、「過少申告加算税が賦課されるにしても、重加算税を賦課されるにしても、処分としての同一性を有するというべきで、重加算税として高い割合の加算税が賦課された場合は、その中に単なる過少申告加算税たるべき部分が包含されていると解するのが相当である」と判示し、原判決もこれを引用した。(二五頁)

しかし、過少申告加算税の場合には「正当な理由」がある場合は、課税を免がれる(国税通則法六五条二項)のに対し、重加算税には、このような免除規定がない。この点において、前者は後者の要件をハミ出す部分がある。それゆえ、両者の関係は、一方が他方に含まれるというような簡単なものではない。

(二) 実際上も、重加算税を課せられた者は、同法六十八条一項の要件が存しないことを主張立証することに全力を挙げるはずであり、この主張立証に成功すれば、課税は免がれると考えるのが自然である。

他方、過少申告加算税を課せられた者は、六十五条一項の要件の外、二項に定める「正当の理由」の存在について主張立証に努めるはずである。

いずれの税を課せられたかによつて、納税者のとる方針は異る。

(三) また、重加算税賦課決定がされても過少申告加算税としては税額が確定しておらず、内容不特定であるから、過少申告加算税賦課決定がされているとみることはできない。

(四) 以上いずれの点から見ても、本件重加算税は全額が取り消されるべきであるのに、原判決は、両税の関係を誤つて解釈し、その一部を取り消しただけで、その余を認容した。

二、仮に、一歩譲つて原判決の如く、両税を一方が他方に包含されていると解するとすれば、審査請求においては過少申告加算税も潜在的に審理対象に含まれていることになるのであるから、当事者のいずれか一方に「正当の理由」の存否を主張立証させるべきである。

そして、本件審査請求手続は、国税通則法及び行政不服審査法に律せられる行政争訟であるから、職権主義によつて審理が行なわれるべきものであり、相手方たる被上告人藤沢税務署長に「正当理由」の不存在を主張させるか、そうでなければ、審判所自ずからその存否を審理すべきものであつた。過少申告加算税の賦課を認めることはそれまで潜在的審理の対象となつていたものを顕在化させるものであるから、原処分庁(藤沢税務署長)に「正当理由」の不存在を主張させるか、そうでなければ、審査庁が進んで審理の対象としてとり上げるのが道理というものである。

ところが、原判決は、「上告人(控訴人)が右『正当の理由』の存在自体を違法理由として主張するのであれば自ずからこれをなすべきである」と判示した。

しかし、これは、審判が職権主義によるべきことを看過したものであつて、反対に、藤沢税務署長が、「正当の理由」の不存在を主張したかどうかをまず判断し、もし、この主張がされていなかつたときは、審理が不尽であり理由が附されていないことを理由として裁決を取り消すべきであつた。

原判決には、この点についての審理を尽さなかつた違法がある。

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